145
茜の夕焼けは、追う自分より早く稜線の向こうへ沈んで行く。やっと辿り着いた

その場所で、この日最後の1枚。優しい日暮れだった。灯り始めた街の灯りは

少し優しく穏やかで。不思議に寂しくはなく。
 144
コロコロと光が踊る。ような景色を切り撮る事は、まだできないでいる。

ある人の優しい光を、ライムイエローのモミジの葉陰を綺麗だなと、ただ見入る。

それは同じ機種にも拘わらず。レンズは解らないけれど。

まだ充分には散り敷いていない落ち葉の絨毯に、寝ころびたかったけれど

できなかった。どこかに無邪気な心を置いてきてしまったのか。少し気恥ずかしく

誰もいなければできたのかもしれない。ピアを胸に抱いて。週末に試してみよう

大地に抱かれてとても幸せな気持ちになれそうな気がする。
 143
錦のモミジ、その一部が空の青に眩しい。フラッシュを焚いて撮ってみても

よかったのだけれど、置いてきてしまった。三脚をきちんと使えば良いのに

小さな体には重く、ついいつも手持ちのままだ。写真を撮る時にはつくづく、

あと10cmの身長が欲しいと思う。三脚を目一杯延ばせば自分の視線が届かず。

かといってそこへ脚立までをも持ち歩くと動きにくい事この上ない。

背の高い事はとても有利だったりするのではないかと・・・
 142
移りゆくいろ。糖が増えていく課程・・と、言ってしまうとあまりにも無粋だけれど。

人生に例えれば、あぁ、自分は今、あの真ん中の黄葉だ。辛うじてもう少し緑が

残った黄葉でありたいと、密かに思ってみたりする。
 141
柔らかな晩秋のいろ、穏やかな空気。何枚もシャッターを切ろうとするところへ

感嘆の声が近づく。(往年の青年)であるたくさんの方達の声だ。

どこかからの観光バスより降り立ち、静かに落ち葉を踏みしめていた。カメラを

構えるのを諦め、けれども心の中で、今この景色に何故かとても似合うなと、

その(往年の青年)の方達の姿をぼんやり見ていた。ピアが誰ににともなく

尾を振っている。車窓越しに。
 140
この年の、季節の一生を終えて、散り敷き大地に帰って行く。土を育む糧となる

自分もこのサイクルの中で新しく生まれ変われたらいいのに。土の上はとても

優しい。そして散り落ちたその葉は土にまた帰り、やがて来る零下の環境に

堪え忍ぶ力を木々に与えるのだ。雪解けの頃にまた、新しい命を芽吹かせる

力となるために。
 139
短い時間を過ごし戻る日の夕暮れ。ふと向けたカメラに、見送ってくれた

娘は逃げてしまい、微かに髪だけが左端に・・

相模の港は穏やかであった。
 138
ガラスに映り込んだ、燃えるような紅。その向こうに更に空の青が。不思議な

眺めだった。これも、秋の景色だ。雪はこの場所にどう映り込むのか、少し

楽しみだったりする。
 137
山の上は霧だ。19号、塩尻峠から見上げる高ボッチは霞んでいた。

後部座席でピアは外を見ている。行こうか。声をかけてスカイラインを登る。

峠の道端に山栗の皮が無数に落ちて朽ちている。実を食べるのは熊だろうか。


峠の半分ほど登ると前を行くバスがある。小型の観光バスだった。

草競馬の広場の手前でバスは止まりそれをゆっくり追い越す。

そこより先は霧が更に濃く、一面ミルク色に。展望台で少し休憩し道を戻ると

流れる霧の中、道の両側に並ぶ三脚の群れが。先ほどのバスだった。

先を越されてしまったな。

そう思い三脚の川の間を静かに会釈をして通り過ぎる。計ったように三脚の川

が一斉に引く。窓を両方開けていると寒くていられないほど。もうすぐこの道も

冬季閉鎖される。冬が来る。

どれだけ頑張っても先が見えない仕事に追われ雪の前にもう一度ここに

登ってくる事はできるだろうか。初めてこの場所を知った時もミルク色の霧が

流れていた。春まで、おやすみなさい。
 136
長い年月見てきた海の落陽を想い出していた。水平線に沈む陽の最後の光に

紅く燃える水面を想い出していた。
 135
夏の忘れ物。そのままそっと想い出をなくしたくないかのように。
 134
暖かな鳥の羽毛のような葉が色づく。両の翼でそっと雛を包む親鳥のように。

柔らかな日射しが踊る。
 133
暖かい感じがするから紅い色が好きなのだと言ったあの人を想い出す。けれど

あの人が好きといった紅はどんな紅だったのか。

短い秋、真っ先に燃えるウルシの紅が白い幹を前に目に痛い程。

 132
静かな午後の水面に、何も変わらないかのように空が映る。変わってしまうのは

人の心だけなのかも知れない。
 131
立ち枯れた幹の残骸が、立ちつくすサギに見えてじっと目を凝らしていた。

幹だと教えられて、それでも尚、遙か遠くを見つめるサギの姿に見えてしまう。

霜が降りる頃、雪に閉ざされてしまう前にもう一度、訪れたい。
 130
風雪に耐え枝を伸ばし曲がっても生きている。

この場所で人知れぬ時も幾年月を生き続け、命がやがて終わるまで

見届けたいと思った。先にそれを迎えるのはこの自分なのだろうけれど。
 129
群れを成さぬ漆の幹は、自分と似ている。そしてあの人にも・・

 128
白い雪の中で、この幹を撮ってみたい。自分も強くあらねばならない。

ならなければ生きていけないから。
 127
この実を知ったのは、ある写真だった。あれから3年弱、私が初めて撮るこの実

はあの写真とこんなにも違う。違うものを受け入れながら互いに、どうしてやって

いけないのだろう。同じであればそこから先には進めない。
 126
木を撮る事がとても難しく、立ち止まってしまった。繰り返し繰り返しシャッター

を切るしかないのだろう。それでもまた新しい場所を見つけられた事が幸せで。
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