185
寝ころんで小さな花を見上げる。陽に透かされた裏側が好きだから。

つい、ヒトの心の裏側を肌で感じてしまうのは好きではないけれど。
 184
優しくなりたい。まぁるく穏やかになりたい。日向のように。深呼吸をして柔らかな

もので満たしたい。      自分も満たされたいのだろう。     きっと。
 183
夏の初めに小さなコッピーを二匹。人気がなければ零下になる部屋の中で

なんとか日々を生きていてくれる。小さな硝子の中の命は寄り添って冬を

乗り越えている。まだ、これから寒くなるこの地で、まだ自分には見知らぬ土地

のままのこの部屋で、一緒に生きている。
 182
生きてきた年数分、強くなっていく。2年前よりは今、そしてこれから半年、1年。

受け入れ難い現実を諦めから過去へと段々に時間が変えて行く。

だから

疲れ果てて待つ人のない冷たい部屋に戻っても暖房をつければ暖まる。

寂しさは少しずつ薄らいで行く。

たくさんの誤解を解けなかった事は、いつしか運命に任せようという気持ちに

変わって行く。

自分を信じていればいい。真っ直ぐに歩いてきた。だから。
 181
大王わさび農園。早朝の雪に埋もれた駐車場に、誰もいないだろうと思って

いたけれど、先客がいた。物好きなのは自分だけではなかったみたい。

手持ちの自分と違って先客はちゃんと三脚を立てて、その場所に。

邪魔をしたくなかったのでゆっくり珈琲を飲みながら目を閉じる。

陽が昇ると川面から立ち上る水蒸気。立っていられないほどに寒い事に、

生きているんだなと実感する。
 180
去年の夏と同じ場所に立ちたかったけれど斜面の雪に阻まれ無理が利かなか

った。この場所は4度目だ。帰路、空を低く白鳥が6羽、飛んで行った。

餌場へ向かう群れなのかもしれない。彼らが旅立つまでに餌場を見つけたい。

 179
横浜港 大桟橋ホール

木の温もりが暖かくガラスのドアを隔ててうねりはそのまま外まで続く。

いつまでもそこに座っていた。青春の多くの時がこの街にはそのまま

詰まっている。離れても尚、よそ者だという顔をしない。汽笛が鮮やかにあの時

を蘇らせる。
 178
人気のまばらな静かなホールの天井は、幾何学的なフォルムでありながら

冷たさを持たない。決して突き放す事もない。

多くを受け入れ旅立ちを見送る港に、相応しい。
 177
ずっと昔、度々訪れていたマリンタワーと氷川丸。

何も知らなかった、その刹那を生きるのに、日々精一杯だった。

けれども心は「生きて」いた。胸が熱くなった。

年を取ったという証なのだろうか。あの頃より周りは勿論随分様変わりしたのに

それでも懐かしい建物もそのままで、迷う事もなく。浜の素顔は決して変わり

きってはいないように思えた。若かった幼かったあの頃、暮らした街だ。

汽笛とカモメの鳴き声に包まれて暮らしていた街だ。
 176
不思議な心地よさは、そう、あの木造校舎のそれに似ている。

友達と何でもない事で笑い、泣き、初恋に胸焦がしたあの温もりに似ている。

正月、元旦の冷えた夕暮れだったせいか、訪れる人もまばらに静かなここで

木肌に手を触れ目を閉じると、あの図書室の光景を想い出す。
 175
絵に描いたような空だった。泣きたいくらいに優しい空だった。
 174
海の青を思う時、忘れてしまいたい想い出から少しだけ解放される。

存在そのものは海からは無縁だからかも知れない。そして自分は今、

その海から遠く離れ、そのさなかに生きている。喧噪も何もかも含めてやはり

海の青が懐かしい。
 173
何度もここへ来ている筈なのに噴水の存在を初めて知った気がする。

目にしていて気付かなかったのだろうか。他のことに気を奪われていたのかも

しれないし時間帯なのかもしれない。朝陽は凍結した湖の鏡面にいつまでも

映し出されていた。冷たいけれども不思議な暖かさがあった。

御渡りを今年は見られるのだろうか。

 172
盆地の街は朝靄のベールにすっぽり覆われて、まだ眠りについているようだった

薄水色の朝。
 171
薄く凍り付いた湖に凍らず生きる魚を釣っている。小さな小さな体のそのどこに

強靱な生命力が宿っているのか。ヒトはあまりにもか弱い。
 170
忘れる薬を下さい。
 169
遅く昇った朝陽の中、水門の流れから立ち上る蒸気。積もった雪の冷たさが

ブーツを通して足から全身に浸みていく。カメラを持つ手は凍えていく。

クリスマスの朝を、想い出のたくさん詰まったこの場所で迎えた。
 168
凍り付く雪の中、ただ耐えて生きて。剥がれた幹のその樹皮の先に命の根を

張り、最後のその時までひたすら生きて。諦めない。堪え忍んで。何の為に。

まだ、終わりではないよと、聞こえてきた気がした。
 167
そこには、先客の足跡があった。柔らかな雪に埋もれた大きな足跡を頼りに

そっと不安定な雪の中を歩く。私と同じようにこの景色を切り撮っていたのだろう

か。すぐ近くの梢でキツツキのドラミングが聞こえる。

見上げると枝に積もった雪が粉になって舞い落ち、午後の陽にキラキラと光って

いた。ただ、深く息を吸い込む。誤解も心の汚れも全て消えていけばいいのに。
 166
ice of edge それとも icy flower 心まで、凍り付いてしまわないよう

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